駅前のファミレスの窓越しに千秋が見つけたのは紛れも無いのだめだったが。
なにやら一生懸命に執筆している姿が珍しくて、千秋は窓の外側で思わず「誰?」と呟いた。
彼と彼女の見慣れた日常
いらっしゃいませ、と掛けられた声を素通りして、千秋はそのままのだめの席へと向かった。
早歩きで通路を抜けて、先程の窓際のテーブルの、彼女の前で立ち止まる。声を掛けずに、そのまま様子を観察するが、かなり一生懸命なのだろう、のだめは全く千秋に気付くそぶりも見せない。
仕方ないので、千秋はのだめの頭を上から掴んだ。
「ぎゃぼー!て…あ、千秋先輩?」
上を見上げた彼女の瞳にようやく彼の姿が映った。
「何してんの」
視線をのだめの手元に向けつつ、千秋はテーブルの向かい側に腰掛ける。
彼の関心が自分の手元のノートに向けられてると気付いたのだめは、嬉々満面でそれをひらりとかざす。
「これデスか?えへー、特別に先輩に今聞かせてあげましょうか?」
「だから、何…」
「歌える組曲シリーズ第二弾!『マングースの森の美女』デス!」
ウェイトレスにコーヒーを注文しながら、千秋はうんざりとする。そうだ、のだめがあんなに熱心になるなんてことは、自分の趣味以外では有り得ない。
千秋はこの間、「もじゃもじゃ組曲が完成したんですよ!聞きマスか?」とのだめが話していた事を思い出した。断固拒否したが。
「まだ今のところはストーリーだけなんですけどね…」
そう言って、今回も拒絶する千秋を軽く受け流して、のだめは朗読し始めた。
昔、とある森にそれはそれは美しいお姫様がいました。
お姫様はピアノが大好きで、毎日毎日ピアノばかりを弾いていました。
ある日、お姫様は偶然お城に迷い込んできたハブに噛まれてしまいました。
毒がまわって倒れかけたお姫様を見た、通りがかりのマングースは眠りの魔法をかけました。
いつか現れる、素敵な王子様がきっとお姫様を眠りから解いてくれるでしょう、と言って。
そして数年後、あまりにも廃れたお城を不思議に思った王子様が訪ねてきました。
王子様は、自らの指揮棒スティックでお姫様の魔法を解き、そのままお城も綺麗にしてくれました。
お姫様は思ったのです。
ああ、この方がわたしの運命の人だ、と。
「それでですねー、ここからお姫様の熱烈なアプローチが始まるんデスよ。まだ書いてないですけど」
のだめはぱたりとノートを閉じた。
「本当は王子様のキスで目覚めるようにしようと思ったんですけど、千秋先輩が照れちゃうかなーって思って」
「……はあ!?」
相変わらず異世界なのだめの脳内に、千秋は頭が痛くなった。
頭を抱え、そのまま無言で勘定書を手に取り、立ち上がる。
それを見たのだめが、慌てて荷物をまとめる。
「ま、待ってくだサイ先輩!のだめも一緒に帰ります!」
そう言うも、彼女がもたもたしている間に千秋は勘定を済ませ、店を出る。
向かいの歩道橋を上り始めた頃、ようやくのだめは荷物を片したようで、走って彼を追ってくる。
まだ開きかけの自動ドアにぶつかるのだめを後ろ目で見ながら、千秋は歩調を少しだけ落とした。
「先輩ヒドイです!どうせ帰る家は一緒だから待っててくれても良いじゃないですか!」
「何が『帰る家は一緒』だ!お前また今日も来るつもりか!?」
当たり前です、とのだめは笑う。そして千秋の腕を慣れた様子で絡め取った。
仏帳面の千秋と、対照的に満面の笑顔ののだめの目が合う。
「……で、ズボラ姫の夕食のリクエストは?」
「あ、のだめ炊き込みご飯がいいです!グリンピース抜きで!」
結局、のだめがその物語を最後まで書き終えることはなかった。
結末はいまだ空白のまま――
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やっと1つ書き終えました…(遅すぎ
いえ、実は2から書き始めまして、3も半分ほど出来てるんですよね(汗
ていうか、切な系とかよく言いましたよね(ニッコリ)!!
でも…少しシリアスな…
つもり(爆
全体を通してそっち系で行きたいんで…。
あー、まだ仁義なき戦い終わってません。以前にも増して更新が不規則な状況が続くと思いますけど、勘弁してください(土下座